2015年11月17日 (火) 午前0:00~0:15
時論公論 「フランス 同時テロの衝撃」
二村 伸 解説委員 / 出川 展恒 解説委員
http://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/100/231849.html
(二村)
またしてもフランスを舞台にした残虐なテロ事件が起きました。「戦争行為だ」とオランド大統領が危機感を表明したように、今回の事件が世界に与えた衝撃と影響は大きなものがあります。2001年にアメリカで同時多発テロが起きて以来、国際社会はテロとの戦いを続けてきましたが、脅威は減るどころかむしろ増大、拡散しています。なぜフランスが狙われたのか、またテロを封じ込めることは可能なのか、世界が突き付けられた喫緊の課題です。今夜は予定を変更してこの問題について中東担当の出川委員と二村の2人で考えます。
まず今回の事件をふりかえります。
事件が起きたのは13日、金曜日の夜を大勢の市民が楽しんでいたときでした。
▼午後9時20分、フランス対ドイツのサッカーの試合が行われていたスタジアムの入り口近くで自爆テロが起きました。▼5分後パリ中心部のレストランやカフェの近くなどで男が銃を乱射。▼9時40分にはコンサートホールで、男が銃を乱射して、観客を人質にとりました。わずか30分間に8か所で爆発や銃撃が起き、少なくとも129人が死亡しました。
オランド大統領は周到に準備された戦争行為だとした上で過激派組織ISによる犯行だとの見方を示しました。ISは事件後犯行声明を出していますが、出川さん、犯行声明から何が読み取れるでしょうか?
(出川)
●この声明は、ISがこれまで広報活動に使ってきたウェブサイトで公表されており、その体裁からも、ISの声明であることはほぼ間違いありません。
●内容を見ますと、「十字軍の旗を持つフランスの心臓を標的にした」「フランスが空爆を続ける限り、おまえたちは平和に暮らすことはできない」などと述べています。つまり、フランスを標的にしたテロであることを強調している点、そして、フランスが、ISに対する軍事作戦を行っているのが理由だとしている点が重要です。
●さらに、「フランス、および、フランスと同じ道を歩む者は、われわれの標的だ」として、攻撃はまだ始まりにすぎず、これからも続くと警告しています。
(二村)
なぜフランスが狙われたのかという点ですが、ISへの空爆など軍事行動に対する報復との見方とともに、世界中の観光客が集まる場所で事件を起こせば、注目度が高く、宣伝効果が大きいと考えたのではないかと思われます。また、フランスには中東や北アフリカの移民が数多く、失業や格差、差別や偏見などに対する不満が根強く、過激派がそうした人々の受け皿になっていることや、過激派のネットワークが存在し、陸続きの国々との往来が簡単で警備の隙をつきやすかったのではないかとの指摘もあります。
こちらは今年起きた主なテロ、あるいはテロと見られる事件です。10月以降だけでもトルコのアンカラで起きた自爆テロ、エジプトのシナイ半島で起きたロシアの旅客機の墜落、そのどちらもISの関与が疑われています。ISは今年初めまでシリア国内で後藤健二さんら日本人2人を含む多数の外国人を人質にとり殺害する事件を起こしてきましたが、最近はシリアやイラクの支配、あるいは活動する地域の外でのテロが目立っているようです。すべてのテロがISによる犯行というわけではありませんが、戦略の転換、より危険度を増したようにも見えます。
(出川)
そう思います。ISの戦略や戦術の大きな転換と見るべきだと思います。フェーズが変わったという言い方をする専門家もいます。ISは、これまで、自らの支配地域の拡大に重点を置き、主にシリアとイラクにまたがる支配地域の中で、残虐な行為を行ってきました。外国で行うテロも、いわゆる「ローンウルフ型・一匹狼的」なものが多かったのです。
ところが、今回の事件は、支配地域の外、ヨーロッパの中心とも言えるパリで行われました。極めて組織的で、相当入念に計画が立てられています。銃撃や自爆テロにつかった装備、手口を見ても、相当な訓練の跡、戦闘やテロの経験者によって行われたことが窺われます。
シリアに一時滞在した者が、今回のテロに参加したことを窺わせる情報も出てきています。
しかし、ISが支配地域をヨーロッパに拡大しようとしている訳ではありません。むしろ、ISは、「イスラム国」の領土だと宣言したシリアやイラクでの戦いに苦戦しているため、敵のお膝元で、反撃を試みているのではないかという見方もあります。ISの支配地域は、有志連合やイラク軍の攻撃を受けて、全体としては縮小傾向にあります。最近、ISは、シリア北部のアレッポの郊外にある空軍基地やシリアとイラクの国境に近い要衝の町(シンジャル)を失ったと伝えられています。
ISの声明は、今後も、敵対する国々へのテロを続けると警告していますが、軍事作戦に参加、または協力している国は、すべて攻撃の対象となるおそれがあります。
(二村)
ヨーロッパでは数年前からシリア帰りの戦闘員や、国内で過激な思想に染まったいわゆるホームグロウンテロリストによる犯行への懸念が強まっていました。
シリアやイラクには世界100カ国以上から2万人とも3万人ともいわれる人が入国したと言われますが、ヨーロッパから4千人以上、とくにフランスは1200人以上が過激派に加わったと言われています。ところがイギリスの研究機関によりますと、外国人の10%から30%はすでに出国したと見られます。パスポートを自ら廃棄したか無効とされた外国人戦闘員が、難民などにまぎれてヨーロッパなど各国に戻っているのです。今回の自爆犯の1人も偽造パスポートを使用してギリシャに入ったのではないかと言われます。イギリスやドイツなどヨーロッパではシリアから戻ったり、若者を過激な組織に勧誘したりしていた人物が多数拘束されていますが、全員の動きを把握することは不可能です。トルコの爆弾テロや今回のフランスの同時テロの自爆犯の中には治安当局の監視の対象だった男がいたと伝えられています。それでもテロを未然に防ぐことはできません。そしてこれは決してヨーロッパだけの問題でなく、アジア、日本も対岸の火事ではありません。
(以下略)