★デフレの“元凶”日銀にあり!白川発言にがく然 2012.04.27
財政政策や金融政策というものは、一般の世人には分かりにくいし、いかにも高度そうだ。だからエリート集団に任せればうまくいくものだと考えていたら、とんでもない災禍が国民にふりかかる。
つくづくそう思ったのは、白川方明日銀総裁のワシントンでの発言(21日)である。彼はデフレの原因が金融政策以外にあると論じて己の政策に固執し、間違いを重ねるのだ。
白川氏は、「膨大な通貨供給の帰結は、歴史の教えにしたがえば制御不能なインフレです」と言ったあと、日本のデフレについて「人々は将来の財政状況への不安から支出を抑制し、そのことが低成長と緩やかなデフレの一因になっている」と言ってのけた。
解説すると、(1)日銀は米連邦準備制度理事会(FRB)のバーナンキ議長が実施してきたような通貨の大量増発はしない。悪性インフレを引き起こしかねないからだ(2)政府総債務が増え続けている日本では、国民が財政悪化を心配する余り、財布のヒモを締めて消費を抑制するので、需要が不足し、デフレになる(3)従って、日銀が通貨を大量発行しても、悪性インフレの危険を招くし、デフレから脱出できるはずもない-と、なるだろう。
白川総裁は、日本国内で高まる日銀へのデフレ無策批判や金融緩和圧力に耐え切れず、中途半端な「1%のインフレ・ゴール」設定に追い込まれ、「金融政策でデフレは直せない」との持論を言いにくくなった。そこで気楽な海外で「本音」を吐露したのだろう。
発言はもちろん自由だが、がく然とさせられたのは内容の誤りである。本気でそう信じているなら、始末が悪い。まず、「膨大な通貨供給の帰結」だが、FRBは2008年9月以降、現在までに3倍以上もドル札を刷った。だが、インフレ率は穏当、株価は回復著しく、個人消費や民間設備投資は上向きになっている。歴史が伝える、通貨大量発行による制御不能なインフレは、モノの供給能に乏しい敗戦直後の日本やドイツなどに限られる。白川発言に、FRBの面々はさぞかし、驚いたことだろう。
政府債務が増え続けるから消費が減り、デフレが起きるというのも一見もっともらしいが、根拠に乏しい俗説である。データを見ればわかることだ。1997年の橋本龍太郎政権による消費増税・緊縮財政以降、日本は慢性デフレの泥沼にはまりこんだ。勤労者世帯の2011年のひと月当たり可処分所得は1997年に比べ15%、7万6700円減った。この間の消費者物価下落幅は3・3%で家計消費は3%減にとどまっている。
つまり、家計の実質消費は下がらず、所得だけが落ち込んだ。勤労者は老後や子供の将来の大学進学に備えた貯蓄を削って、消費水準を維持しているのである。消費減がデフレの原因だと言い、脱デフレに向けた金融の量的緩和に背を向ける日銀こそがデフレの元凶なのである。(産経新聞特別記者・田村秀男)