福島第一原発の事故から今日で2年半、現場では汚染水の流出が止まらない非常事態がつづいており、国際的にも懸念が高まっている。これに対して安倍総理大臣は、オリンピックの総会の場で「状況はコントロールされている」と、説明した。しかし、漏洩は続いている上に、対策に技術的な裏付けがあるわけではなく、違和感を持たざるを得ません。政府が打ち出す汚染水対策は、本当に実効性があるものなのか、汚染水問題の課題を考える。
<1号機のタービン建屋地下の様子>
地下トンネルと壁との接合部から、地下水が音を立てて、建屋内に流れ込んでいるのがわかる。地震で壁にヒビが入ったとみられ、毎日400トンの地下水が流れ込んで汚染水となっている。汚染水はタンクに保管されてきたが、既に1,000基にものぼり設置場所も切迫している。これに対する東電の対策はことごとく問題が発生した。建屋に入り込む前の地下水を井戸で汲み上げて、海に放出することを計画したが、基準以下とはいえ、トリチウムが検出されて漁業者の理解が得られず、実現の時期は見通せていない。
また、汚染水から殆どの放射性物質を取り除くことができる装置も開発したが、機器の腐食が見つかり、運転は止まったままだ。そして7月に地下のトンネルの汚染水が、地下水に混じって海に毎日300トン流出していることが判明し、追い討ちを掛けるように、地上のタンクからも300トンの汚染水が漏れた。こうした状況に対して国際社会は強い懸念を示した。韓国は、国民の不安が大きいとして、福島県など8県の水産物の輸入を全面禁止にした。これに対して安倍総理大臣は、IOCの総会の場で「状況はコントロールされている。汚染水の影響は原発の港湾内で完全にブロックされている」と説明して理解を求めた。しかし、本当に「コントロールされている」と言えるのか? 福島県の人たちからは「汚染水の問題は、まだ、コントロール下ではないと思う」という受けとめも聞かれます。現場の状況だが、タンクからの漏洩については、まだ原因が分からず、近くの井戸からは、1リットルあたり3,200ベクレルのストロンチウムが検出され、汚染水が地下水に拡がった恐れが出ている。また、地下からの汚染水漏れでは、これまでに港にセシウム137が20兆ベクレル、ストロンチウム90が10兆ベクレルもれたと、見積もられている。
東電は地下水を遮る土の壁を造ったが、港湾内の放射能濃度は低くならず、汚染水は漏れ続けていると見られる。ただ、港の外ではいまのところ放射能は検出限界値以下となっており、汚染拡大防止のため、港湾内にはカーテン状の特殊な布が張られている。しかし東電は、これで完全に遮断出来ているわけではない、と説明している。
また、水の流れを止めるための鋼鉄製の壁も、まだ建設途中で、東電は港とその外側は、水が行き来している、としている。こうしたことから、今後も漏れ続ければ、港の外への影響も否定できないわけで、「コントロールされている」とは言いがたいと思う。
確かに政府は、汚染水対策に総額470億円の国費を投入することを決め、関係閣僚会議を設置したり、現地に政府の事務所を置くなど、積極的に対応する姿勢を示してはいる。「東電まかせ」から脱却し、ようやく政府が前面に出て来たことは評価できる。
しかし、国費投入の目玉となる、地下の土を凍らせて地下水を遮断する「凍土壁」の工事は、1年前倒しして来年度末までに完成させる方針だが、技術的な目途は立っているわけではない。1.6㎞にも及ぶ凍土壁は、世界でも例がなく、耐久性の検証が必要だ。
また、もう一つの目玉の、汚染水から放射性物質を除去する装置も、トリチウムだけは、取り除くことができず、そのまま海に放出することはできません。しかも、いずれも完成には1年以上かかる。一方で、今すぐやらなければならない緊急の対策への踏みこんだ対応は示されていない。政府はタンクの漏洩対策として、洩れやすいボルト締め型を、全て洩れにくい溶接型へ変更することは指示したが、特別な支援策はない。政府は東電への支援を技術的に難しいものに絞っているためだ。
確かに「凍土壁」に比べれば「タンク」の難易度は高くないかも知れません。しかし溶接型の製造には時間がかかる。暫くはボルト締め型も使わざるを得ず、東電は見回りの作業員を60人増やしたほか、洩れないよう、シーリングするなど、今後、対策にもコストがかかる。政府が汚染水対策の全てに責任をもって対応する形を取らなければ、漏洩は止まらないと思う。国費の投入も含め、タンクにも、より踏みこんだ対応を検討して欲しいと思う。
また、政府の体制についても、強化はされているが、もっと東電と一体になった体制が求められる。今回のタンクからの漏洩の規模について、東電は放射性物質の量を表す「ベクレル」ではなく、人体への影響を示す「シーベルト」で発表してきた。これについて(原子力)規制委員会の田中委員長は「国際社会に間違った発信をしており、怒りを感じる」と延べ、東電を指導する考えを示した。
タンク内の放射性物質の多くが出す放射線は透過力が弱いベータ線で、少し離れれば、影響は弱まることから「シーベルト」では誤解を招く恐れがあり、放射能の量を表す「ベクレル」で発表すべき、というものだ。また、田中委員長は、漏洩量など、ほかにも東電の発表には曖昧な点が多い、と指摘している。こうした問題は東電と政府が一体となっておらず、情報発信も一元化できていないことが背景にある。
世界で高まる不安に説明を尽くすためにも、政府は事故直後のように、汚染水問題を専門に担当する閣僚を置き、その下に東電と関係省庁、それに規制委員会や専門家も含めた、合同の対策本部を設置して、政府が強い権限で東電を指導し、日本政府としての統一見解を発信する体制をとらなければならないとおもう。
このように体制を強化した上で、国費を投入していくことはやむを得ないと思う。そうしなければ、立ちゆかないところまで来ているからだ。しかし国費は税金だので私企業に多額の税金を投入することに、国民の合意が得られているわけではない。
事故後、当時の民主党政権は、東電を潰さず、東電の責任で事故処理を行う仕組みをつくった。国が責任を負うことを避けたかったからだ。政府は「原子力損額賠償支援機構」をつくって5兆円の資金を用意し、東電に貸付けて、事故処理をさせてきた。しかしその後も赤字続きで、安全にコストをかける余裕がなくなりつつあり、東電は賠償や除染、廃炉に10兆円を超える費用がかかるとして、更なる支援を求めている。
これは現在の支援の枠の二倍で、今後追加で国費の投入をせざるを得ない局面が出てくると思う。政府は東電の支援のあり方についても改めて検討し、国費投入に国民の理解が得られるような仕組みを作ってゆく必要があると思う。
安倍総理大臣は、汚染水問題に責任をもって対応する、と国際社会に向けて約束した。日本の危機管理能力が問われている。早急に汚染水の漏洩を食い止める対策に目途をつけて、原発をコントロール下に置くことが、求められる。